フランス人監督による北方領土の国後島を舞台にしたドキュメンタリー映画「クナシル(KOUNACHIR)」が製作された。欧州で極東の辺境が映画の題材になるのは珍しく、フランスの三大ドキュメンタリー映画祭の一つで最高賞を獲得するなど高い評価を受けている。4月にロシアで公開され、秋には日本の映画祭でも鑑賞できる可能性がある。(毎日新聞2021/3/22)
手掛けたのは、旧ソ連・ベラルーシの首都ミンスク生まれのウラジーミル・コズロフ監督(64)。大学で歴史学を専攻し、2002年からドキュメンタリー映画製作を始めた。「宇宙飛行士」などの作品がある。ロシア語も堪能で、18年5月に国後島を訪問、約1カ月かけ撮影した。
71分の映画は、ソ連軍の侵攻と占領で戦後、島を追われた日本人が残していった生活道具を掘り起こす男たちの姿などを追う。芸術性を重視するフランス映画らしく、白黒写真のカットを入れたり、波の音や小鳥のさえずりなどの「自然のささやき」を効果的に使ったりしながら、島で暮らすロシア人の本音を引き出し、国境政策に翻弄(ほんろう)された人々の姿を伝える。
昨年末のフランスの「第30回ドキュメンタリー映画祭」でグランプリを獲得。「この映画には、75年間平和条約が結ばれていない2国間に、回復的で調和の取れた提携が実現することを強く望む方向性が示されている」と講評された。ネットでは「日本人が戦争に負けて失ったというこの物語は、この島の美しさを手に入れたロシア人が『勝ったこと以外に何もしなかった』というドラマでもある」との映画評も紹介されている。
日本での公開予定はないが、10月に開かれる「山形国際ドキュメンタリー映画祭」にエントリーされており、選ばれれば山形と東京で上映の可能性がある。3分前後の予告編は動画投稿サイトのユーチューブで見られる。
映画に日本語訳を付けた北海道根室市の翻訳・通訳業、佐藤順一さん(57)は「フランス独特の手法で作られた映画は日本人には難解かもしれないが、北方四島を追い出された元島民にも見てほしい。コズロフ監督は元島民の視点からのドキュメンタリー製作も目指しているようだ」と話している。【本間浩昭】
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