ロシアが対米関係の悪化を背景に、北方領土で軍備増強を着々と進めている。1日には米国によるミサイル防衛(MD)網構築への対抗措置として、択捉島に高性能地対空ミサイル「S300V4」(射程400キロ)を実戦配備。既に北方領土に地対艦ミサイルを配備しており、海と空の守りを固めた形だ。日本政府は繰り返し抗議しているが、ロシアは対米核戦力の拠点オホーツク海を守るため、北方領土の戦略的重要性を鮮明にしている。(北海道新聞2020/12/10)
ロシア軍の極東地域を管轄する東部軍管区などによると、S300V4は配備されていたユダヤ自治州から択捉島へ移送。弾道ミサイルや戦闘機などに対する迎撃能力が高いとされ、敵の攻撃から重要施設を守るのが狙いという。
ロシア空軍の元幹部はインタファクス通信の取材に、日本を含むアジア太平洋地域で中距離ミサイルなどの配備を計画している米国への「対抗措置」と説明。「攻撃的ではなく防御的な武器で、誰にも迷惑をかけていない。われわれの領土でロシアの立場を強化しなければならない」と強調した。中距離核戦力(INF)廃棄条約を一方的に離脱した米国をけん制するとともに、北方領土の実効支配を誇示した格好だ。
ロシア軍は第18機関銃・砲兵師団が、択捉島のガリャーチエ・クリューチ(瀬石温泉)と国後島のラグンノエ(二木城(にきしょろ))に駐留する。2016年に地対艦ミサイル「バスチオン」(射程300キロ)を択捉島、「バル」(同130キロ)を国後島に設置済み。18年には択捉島のヤースヌイ空港を軍民共用化し、最新鋭のスホイ35戦闘機を配備した。
S300V4の配備で「主要な脅威に対応するものが一通りそろった」(日本政府関係者)とみられる。今年10月には主力戦車「T72B3」のクリール諸島(千島列島と北方領土)への配備も報道されている。
加藤勝信官房長官は2日の記者会見で「わが国の立場と相いれず、受け入れられない」とロシア側に抗議した。だが、ロシアは核ミサイルを積んだ原子力潜水艦が活動するオホーツク海への敵の侵入を防ぐため、クリール諸島を戦略的拠点に位置付ける。千島列島北部のパラムシル(幌筵)島と中部のマツワ(松輪)島にも、バスチオンの配備を計画している。
ロシア軍に詳しい東京大の小泉悠特任助教は「ロシアは最終的にオホーツク海全体をカバーする防衛網をつくりたい。北方領土が一段落したので、今後は千島列島への配備が実現するかどうかだ」と分析する。(ユジノサハリンスク仁科裕章)
コメント