4月から5月にかけて色丹島の丘陵に妖艶な白い花を咲かせるカタオカソウ(Pulsatilla taraoi)に危機が迫っているらしい。
カタオカソウは明治天皇の侍従、片岡利和が天皇の命で1891年(明治24)から翌年10月にかけて千島列島の探険を行った際に、初めて発見された。

同行した北海道庁職員、多羅尾忠郎氏の「千島探険実紀」によると、「この調査は、沿革、地理、漁業、山林、農業、鉱業、商業、鳥獣類、陸上草木及海草、行政、教育、宗教、風俗人情、開拓、港湾の将来計画等広範なものであるが、植物についてみると、採取は 78種に及んでいる。そして今回の調査で新に千島の植物誌に加わったものは9種ある」とし、その一つにカタオカソウの名前が出てくる。

各島で採取した千島産植物調査は、宮部金吾博土に整理を依頼して発表した。
同書にはこう記されている。
札幌農学校教授宮部金吾調
多羅尾忠郎採集
今回の探険で新たに千島の植物誌に加わった種類9種あり。即ちカタオカソウ、ハイキンポウゲ、チシマイチゴ、クロバナラウゲ、チシマラッキョウ、タケシマユリ、キバナノアマナ、イワガリヤス、カニツリグサ。このうちカタオカソウとチシマイチゴはわが国境内で初めて発見されたものなり。
カタオカソウはフクジュソウの類で形状はやや似ているが茎葉及び萼の外面は繊細なる白毛に覆われ甚だ珍らしいものである。この草はシベリア、ウラル山、アルタイ山等に産するけれども日本国内に植生しているのを知ったのは今回が初めてである。和名は多羅尾氏と相談して、片岡侍従の千島探険を記念するために「カタオカソウ」と命名した。

カタオカソウは千島列島の固有種で南限が色丹島とされている。ざっと文献を調べると、自生が確認されているのは中千島の新知島プロトン岬(「北方植物の旅」館脇操 朝日新聞社1971)、択捉島の蘂取から茂世路までの標高400mの高原 (「北方領土と海峡防衛」国民新聞社1988)、占守島(「わが北千島記 : 占守島に生きた一庶民の記録」別所二郎蔵 著講談社1977)、そして色丹島・穴澗である。
購入すると高価なようで、ネット通販では「カタオカソウ 超大株 A」で販売価格 49,800円 が二重線で消されて19,920円也と出てくる。
色丹島のカタオカソウが危機に!?
(クリル自然保護区ウエブサイト2025/4/18)

色丹島クラボザボツコエ村(穴澗)に自生するカタオカソウ(Pulsatilla taraoi)の個体数が減少しており、地元住民は美しい植物の運命を心配している。
この問題は、VKontakteの公開グループ「Shikotan News – 24/25」で熱く議論されている。グループ管理者のアンドレイ・ダネリヤ氏は、クラボザボツコエ村近くの丘陵で30年間カタオカソウを観察してきた。「文字通り一帯が花で覆われていた最高の時期は2000年代半ばでした。しかし、7年ほど前から減少に気づきました」

クラボザボツカヤ図書館職員で、毎年観察し写真を撮っているオクサナ・トマソンさんは「カタオカソウをを見つけるのは本当に大変でした!昨日は複雑な気持ちでした…美しい、楽しい…でも、カタオカソウはほとんどなくなってしまいました」と残念がる。
花の数がこれほど減った理由はいくつか考えられる。容赦ない掘り起こしや花束にするための収穫、交通機関による踏みつけや損傷など。重要なのは、この場所を速やかに保護し、車やバイクが通行する道路を迂回させ、色丹島の住民や観光客が周辺を散策できる歩道を整備することだ。
クリル自然保護区の研究副所長エレナ・リニク氏は「カタオカソウが自生する丘陵地帯は、植物学的に非常に興味深い場所です。少なくとも30種の高山植物と亜高山植物が生育しています。このような豊かな自然を守るために、私たちはあらゆる努力をしなければなりません!」と語る。

カタオカソウは矛盾に満ちた植物だ。外的環境に強い一方で、気まぐれな植物でもある。低温耐性に加え、比較的痩せた土壌でも生育し、岩の多い斜面を生息地として選ぶことが多いのだ。しかし一方で、生存にはグロムス菌類(Glomeromycota)に属する特定の菌類との共生が必要だ。
リニク副所長は「カタオカソウの生命活動にとって重要な要素は、アーバスキュラー菌根の存在です。つまり、成長には、栄養吸収やストレスへの対応など、植物の機能を向上させる特定の種類の微小菌類が必要です。そのため、掘り起こして苗床で育てようとすると、おそらく枯れてしまうでしょう」と話す。
カタオカソウの個体数に影響を与えるもう一つの要素は、種子形成数が少ないことだ。そのため、この植物はゆっくりと繁殖する。千島列島全体でカタオカソウの個体数は1,000個体を超えない。(サハリン州レッドブックによる)
