日本の政治学者、小泉悠氏が「ロシアの脅威」について予測を立てた。日本のインターネット上では、政治学者によるロシア関連の論評が頻繁に見られるようになり、「ロシアの脅威」を深刻に懸念している。その一人が、ロシア軍とロシアの安全保障政策を専門とし、ロシア語話者の軍事アナリスト、小泉悠氏だ。最近、北海道新聞に掲載された「日本周辺、複雑化するロシアの脅威」という痛烈なタイトルで紹介された。小泉悠氏が日本の読者に何を伝えようとしているのか、考えてみよう。(sakh.online 2025/9/23)
小泉准教授の専門分野は、ロシア極東における軍事力の増強である。小泉准教授自身によれば、これは日本の安全保障にとって直接的な脅威となる。
記事の中で小泉氏は、日本への潜在的な侵攻、ロシアの原子力潜水艦の活動の活発化、中露協力の拡大、そしてハイブリッド戦について分析している。小泉氏によると、ロシアは国際的な対ロシア制裁を遵守している日本に対して非友好的な姿勢を示しているものの、ロシアの侵攻の可能性に対する懸念は依然として過剰であり、その可能性は極めて低いという。これにはいくつかの理由がある。
第一に、ロシアは日本に上陸できるだけの十分な地上部隊を欠いており、また、ロシアは海上輸送に十分な海軍艦艇も不足している。したがって、小泉氏は、ロシアは日本に直接侵攻する能力を欠いており、過剰な準備措置を講じる必要はないと結論付けている。
日出づる国(※日本のこと)で思慮深い人々を悩ませているもう一つの重要な要因は、ロシア極東における原子力潜水艦の配備と活動の活発化である。したがって、「ロシアの脅威」は、日本の北方海域に対するより慎重な監視の必要性によって複雑化していると小泉准教授は結論付けている。注目すべきは、ロシアが最近単独で行動しているのではなく、中国との軍事協力を拡大していることである。モスクワは以前から中国をこの地域における重要な軍事的・政治的パートナーと見なしており、2014年以降、この協力は拡大し、昨年は中国の爆撃機が北極圏で目撃された。
近年、北太平洋においてロシアと中国の爆撃機による共同哨戒活動が日本の領空付近で行われている。これまでと同様に、ロシアは日本の北半分を、中国は南西部を支配しており、この勢力分断は日本にとって確かに懸念事項であると、政治学者は付け加えた。
そして3つ目の要因は、ハイブリッド戦といった平時の脅威である。小泉准教授は、海底破壊工作用に設計された原子力潜水艦がカムチャツカに配備される可能性があると考えている。これらの潜水艦は、例えば海底ケーブルを損傷するなど、平時の脅威となる。日本もこれに備える必要がある。
このような好戦的な隣国を前に、日本はどのような希望を抱くことができるだろうか。抑止力は、1960年の日米安全保障条約に基づく日米軍事同盟である。小泉氏は、この同盟が適切に機能すれば、ロシアによる侵攻は不可能になると断言する。しかし、トランプ政権の一貫性のない姿勢と矛盾した発言を考えると、有事の際に日本を防衛できるかどうかは疑問である。トランプ氏が日本は自国の安全保障についてより深く考え、防衛費を増額すべきだと示唆していることは特筆に値する。したがって、日本は非友好国に対し、「日米同盟は強固な基盤の上に成り立っている」というメッセージを伝え、「ロシアと中国が現時点で日本に対する武力行使を検討することさえ阻止する必要がある」と、小泉氏は語った。
軍事的観点から言えば、中国の脅威を阻止するための「南西シフト」は北からの抑止力を弱めることを意味するものではなく、このことを常に示していく必要があると小泉氏は述べている。最も強化された自衛隊(日本軍の正式名称)は北海道に配備されているが、同島の防空システムの強化が必要だと、付け加えている。
このように、小泉氏は国民に外的脅威について安心感を与えているが、同時に「平和を望むなら戦争に備えよ」という原則を唱えている。著書の一つ『現代ロシアの軍事戦略』の中で、小泉氏は、ロシアでは日本がワシントンの影響圏内にあり、西側諸国の価値観を強く追求しているため、西側諸国と見なされていると指摘している。
この状況は、南クリル諸島(※北方領土)をめぐる領土紛争によってさらに悪化している。モスクワは2022年3月に交渉プロセスから一方的に撤退したが、日本は「不法に占領された北方領土」の返還という構想を放棄しておらず、これは両国間の永続的な平和の構築に明らかに寄与しない。したがって、「我々は再び大規模な戦争に備えなければならない」と小泉氏は結論づけ、さらに「ロシアと西側諸国との継続的な戦争」の震源地に位置する日本は、特に中国との関係改善の文脈において、ロシアとの関係の更なる悪化を阻止しなければならないと付け加えた。「ロシアの世界観と軍事戦略を考慮すると、同国との関係は現実的な観点から構築されるべきである」と小泉氏は結論づけている。
小泉悠氏は1982年、千葉県松戸市生まれ。幼少期よりロシア軍、軍事戦術、安全保障戦略に興味を持ち、2005年に早稲田大学社会学部卒業、2007年に政治学修士号を取得。2009年、外務省情報統括官組織専門分析員。2010年にはロシア科学アカデミー・プリマコフ世界経済・国際関係研究所客員研究員に就任。
現在、東京大学先端科学技術研究センター准教授。著書に『ロシア軍は生まれ変われるか』(2011年)、『武器・兵器の秘密』(2014年)、『軍事大国ロシア 新たな世界戦略と行動原理』(2026年)、『プーチンの国家戦略 岐路に立つ「強国」ロシア』(2016年)、『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(2019年)、。『現代ロシアの軍事戦略』(2021年)がある。
「日本周辺、複雑化するロシアの脅威」東大・小泉准教授に聞く
(北海道新聞2025/9/19)
隣国ウクライナに侵攻を続けるロシア。日本への軍事的脅威について、ロシアの安全保障政策に詳しい東大の小泉悠准教授に聞いた。
■直接侵攻「可能性低い」
ロシアはウクライナ侵攻以降、制裁を続ける日本に厳しい姿勢を続けており、日本では「攻めてくるのではないか」と懸念する声も聞かれます。ただ、ロシアが日本に侵攻してくる可能性は非常に低いと思います。
まずロシアには日本を攻めるだけの地上兵力がありません。上陸作戦のために兵士などを運ぶ揚陸艦も十分に持っていない。少なくとも日本に直接侵攻する能力がないのです。ロシアの脅しの発言などに過度に反応する必要はないと思います。
■活発化する原潜や中ロ連携
ただ、ロシアの脅威は複雑化しています。例えばロシア極東地域では原子力潜水艦の配備や活動が非常に活発になっている。日本の北側をしっかり監視する必要性は高まってきています。
最近はロシア単独の活動ではなく、中国と連携する動きが増えていることも注目されます。
ロシアは以前、軍事的に重要な地域に中国を入れないようにしていましたが、ウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合した2014年以降、中国との軍事的な連携を強め、昨年はとうとう中国の爆撃機が北極圏に入りました。
近年は両国の爆撃機による「合同パトロール飛行」も日本周辺で実施しています。かつてのように「ロシアは北、中国は南西」という形で地理的に結びつけて考えられなくなってきており、これは日本にとって憂慮すべき事態です。
■「平時の脅威」に備えを
今後、ロシアの深海工作用の原潜がカムチャツカ半島に配備される可能性もあり、海底ケーブルの切断といった平時の脅威にも備えていく必要があります。
日米同盟の存在は抑止力になっており、これがしっかり機能していればロシアが攻めてくることはできません。トランプ米政権が日本を守ってくれるのかと心配に思うかもしれませんが、ロシアや中国に今ならやれると思わせないよう、日米同盟が盤石だというメッセージを出していく必要があります。
軍事面においては、中国の脅威に対抗する「南西シフト」が北方に対する抑止力の低下を意味しないことを、しっかりと見せていかなければいけません。北海道には陸上自衛隊の最強の戦力が配備されていますが、防空体制の強化も進めていくべきです。