2023年9月に北方領土・国後島沿岸で定置網にかかったウミガメが、暖かい海に生息するタイマイと確認された。研究者が発表した論文の中で明らかにした。国後島のクリル自然保護区によると、これまでタイマイがロシア海域で記録されたことはなく、今回が初めてとなる。
ロシア科学アカデミー極東支部生物学・土壌科学研究所の上級研究員のイリーナ・マスロワ氏、ロシア科学アカデミー動物研究所の上級研究員のコンスタンチン・ミルト氏、クリル自然保護区職員のセルゲイ・ステファノフ氏が共同で科学論文「ロシア極東におけるタイマイの初遭遇とその他のウミガメ類の発見」を執筆した。この論文は、2024年の動物学ジャーナルに掲載されることが承認された。
論文によると、2018年から2023年にかけて、ロシア極東海域で、タイマイの発見を含め、4種のウミガメ(カメ科、オサガメ科)の新たな遭遇が4件記録された。このうち3件は国後島周辺で発生している。
昨年9月21日、国後島ユジノクリリスク(古釜布)の南クリル・ルィバコンビナート社の従業員が成体のウミガメを捕獲した。同社のイヴァン・マトヴェイツェフ氏によると、ウミガメは網に入り込み、自力で逃れることができなかったという。漁師らは網からウミガメを引き抜き、一緒に写真や動画を撮影した後、海に放した。
この情報は、クリル自然保護区のスタッフ、ウラジオストクにあるロシア科学アカデミー極東支部生物学・土壌科学研究所、サンクトペテルブルクにあるロシア科学アカデミー動物研究所の爬虫類学者の目に留まった。オンラインで公開されたビデオのおかげで、科学者はこれがロシアの動物相の新種であると判断した。
クリル自然保護区は「ビデオには、タイマイの主な特徴である前肢の2つの爪、3つの後眼窩稜、4つの胸膜膜、甲羅(甲羅の背側部分、編集者注)の鋸歯状の縁、そして特徴的な黄色がかった体が写っていた。甲羅の長さは約0.8メートルあった」と説明している。
これまで、タイマイはサンゴ礁がある暖かい海で生息していると考えられていた。しかし、すぐにこのカメの活発な回遊性が明らかになった。主にオスが繁殖地から数千キロ離れた場所まで回遊していたのだ。
2023年9月17日、国後島のオホーツク沿岸(アリョ―ヒン岬周辺=古丹消)で、サハリンの「ポベーダ」博物館記念館の職員であるイーゴリ・サマリン氏が、比較新しいカメの骨格の破片を発見した。調査の結果、科学者たちはアオウミガメ(Chelonia mydas)のものであると考えている。クリル自然保護区は「今回のケースは、クリル諸島でアオウミガメが発見された初めてのケースであるだけでなく、アジアでこの種の発見としては最北端でもある。アオウミガメの最も近い恒久的な生息地は、日本の本州南部にある」と強調した。
2018年9月20日には、国後島オホーツク海側、国後海峡のトレチャコボ村付近(秩苅別)で、南クリル・ルィバコンビナート社が行っている沿岸漁業の網に、成体のオサガメ(Dermochelys coriacea)が掛かった。カメは怪我をしておらず、漁師たちは写真や動画撮影の後、海に放した。
論文の中で科学者は、1970年代以降、亜北極海(北極海の南側)でウミガメの目撃数が増加している原因は、漁業の増加(したがって、これらの動物の目撃記録の増加)、暖流、海水の定期的な温暖化、さらには地球温暖化に関係していると示唆している。
例えば、エルニーニョ現象の年には太平洋の温暖化が進み、暖かい海水を好むウミガメがロシア海域に入って来る可能性がある。これは、ある種の「温暖回廊」が形成され、ウミガメがそれに沿って通常よりも北の海域まで移動できるようになるためである。
「ロシア極東海域南部のエルニーニョがさらに活発化すると、ヒメウミガメ(Lepidochelys olivacea)が出現する可能性がある」と動物学ジャーナルの論文は指摘している。この種は南クリル諸島の海域ではまだ目撃されていない。クリル自然保護区の科学者は住民と漁業者に対し、ウミガメの発見や捕獲には細心の注意を払い、責任を持って対処するよう求めている。
科学者は、ロシア海域を泳ぐウミガメの実際の数は公式発表よりも多いと確信している。実際、クリル諸島の南部には数種類のウミガメが生息している。漁師たちによると、南クリル諸島の海域でこれらの爬虫類に遭遇することはそれほど珍しいことではない。残念ながら、これらの発見は報告されないことが多い。
科学者たちは「クリル諸島の海岸で海生爬虫類の死骸が見つかった場合は、写真や動画を撮ってください。発見したものは、クリル自然保護区に報告してください。亜北極圏での遭遇や捕獲の事実を一つ一つ研究することで、ウミガメの分布と生態に関する新しい情報が得られ、これらの動物の事故による死亡を減らす方法を開発できるようになります」と論文を締めくくっている。
(クリル自然保護区の情報より)
世界のウミガメ類には2 つの科から 7 種が存在する。オサガメ科 (1 種) とカメ科 (6 種) 。東アジア諸国、中国、日本列島、朝鮮半島の海域には、オサガメ (Dermochelys coriacea)、アカウミガメ (Caretta caretta)、アオウミガメ (Chelonia mydas)、タイマイ (Eretmochelys imbricate)、ヒメウミガメ (Lepidochelys olivacea) の 5 種が生息しています。ウミガメ類はいずれも個体数が減少傾向にあり、保護状況は良好だ。オサガメとタイマイは絶滅の危機に瀕しており、アカウミガメとヒメウミガメ、アオウミガメは絶滅危惧種。