7月7日から20日まで、ロモノーソフ・モスクワ国立大学(MSU)化学部の放射化学者チームが国後島で現地調査を行った。科学者たちは、黒潮によって運ばれる放射性汚染物質がクリル諸島(この場合、北方四島を含む千島列島)に到達しているかどうかを調べるため、湖水と海水あわせて約15.8トンの水をろ過・採取した。
この調査は、ロシア科学財団のプロジェクト「黄海および日本海における福島第一原子力発電所由来の放射性汚染物質の移動・拡散経路」(助成番号25-43-00052、2025~2027年)の一環として実施されている。本プロジェクトは、MSU化学部放射化学科が中国の蘭州大学の研究者らと共同で進めており、プロジェクトリーダーはロシア科学アカデミー会員のステパン・ニコラエヴィチ・カルムイコフ氏が務めている。また、本調査はサハリン国立大学(SakhGU)と共同で行われている。

本プロジェクトの目的は、2011年3月11日の福島第一原子力発電所事故、同発電所からの処理水放出、および20世紀半ばに太平洋上の実験場で行われた核実験に由来する放射性核種の長距離輸送を定量的に評価すること。日本列島沿いに流れ、日本海に入り、サハリンやクリル諸島方面へと伸びる暖流である黒潮とその分流が、この輸送の主な要因であると考えられている。科学者たちはネプツニウム、プルトニウム、アメリシウム、テクネチウム、ヨウ素など、検出が困難な放射性核種の濃度を、水に溶け込んだ状態(溶存態)と懸濁した状態(懸濁態=水や液体の中に細かい固体や粒子の形として浮いている状態)の双方について測定した。

湖水サンプルの調査も、本プロジェクトの重要な要素の一つだ。これらの湖は海流から隔離されているため、湖内で検出される物質はすべて大気由来であると考えられる。湖のサンプルと海水のサンプルを比較することで、研究者は放射性核種の流入経路(大気経由か海洋経由か)を区別し、その発生源を特定することができる。
このプロジェクトの初年度は黄海を対象とし、2年目は日本海およびその周辺の極東地域を対象とした。その一環として、2026年7月には遠征隊が国後島を訪れました。同島は、エカテリーナ海峡(国後水道)に流入する黒潮の暖流の分枝と、クリル諸島に沿って南西に流れる親潮の寒流とがまさに交わる地点に位置している。

サハリン国立大学(ユジノサハリンスク)で開発された革新的な装置を用い、科学者たちは現場で直ちに、水中の懸濁態成分と溶存態成分を分離した。計4か所のサンプリング地点で、合計15,772リットルの水が処理された。
調査の最も繊細な工程は屋外ではなく、クリル自然保護区内のガレージを改装した仮設の現地実験室で行われた。各地点から100リットルの水を採取し、塩酸を加えてpHを4に調整した後、塩化鉄(III)六水和物を約40グラム混合し、さらにアンモニアを用いてpHを10まで上昇させた。一晩置くと水酸化鉄の沈殿が生成され、水全体に含まれるアクチノイドが効率的に捕捉された。翌朝、沈殿を液体から分離することで、100リットルの水は国内輸送に適したコンパクトなサンプルへと変換された。さらに、各地点でヨウ素129および重金属分析用のサンプルも採取され、合計12個のサンプルと、懸濁物質を捕捉したフィルターが回収された。

4か所すべての地点における線量率は0.05 µSv/h(マイクロシーベルト毎時)を超えず、これは通常の自然放射線レベル(バックグラウンド放射線)に相当するものだった。測定機器による異常の検出もなかった。これは予想通りの結果だった。対象となる濃度は標準的な線量計では検出できないほど低く、個々の原子を検出可能な質量分析計を用いて測定する必要があるためだ。
処理後の液体はユジノサハリンスクにあるサハリン国立大学の実験室へ運ばれ、そこで減圧ろ過にかけられた。その後、採取・処理されたサンプルはモスクワへ空輸された。その謎を解く鍵となるのは、同位体比だ。プルトニウム240とプルトニウム239の比率は、いわば「指紋」のような役割を果たす。大気圏内核実験に由来する地球規模の放射性降下物では、この比率はおよそ0.18だが、太平洋上の実験場周辺に降下した「近距離」の降下物では0.30~0.36となり、福島に由来する物質とは明確に異なる。この比率とヨウ素129の含有量を分析することで、その水が国後島の沿岸に何を運んできたのかを正確に特定することが可能になる。
現地調査チームは4名で構成されていた。ナタリア・クズメンコワ — 地理科学候補(博士号相当)、モスクワ国立大学(MSU)化学部放射化学科、遠征隊長兼プロジェクト主任研究員。ウラジーミル・ペトロフ — 化学科学候補(博士号相当)、MSU化学部放射化学科、プロジェクト主任研究員。エドゥアルド・トカール — 化学科学候補(博士号相当)、サハリン国立大学(SakhGU)北極圏生態系放射線生態モニタリング・保護研究所長。アンナ・マツケヴィチ — SakhGU北極圏生態系放射線生態モニタリング・保護研究所、上級研究員。
クリル自然保護区は、活動の調整、島内の移動やサンプリング地点へのアクセスの支援、そして野外放射化学実験室を設置するための場所の提供などで協力した。(tia-ostrova.ru2026/8/4)



