日本外務省は、ロシアでスパイ容疑により北海道新聞記者が逮捕されたことを受け、ニコライ・ノズドレフ駐日ロシア大使を呼び出し、抗議を行った。この抗議は、ロシア当局が記者を拘束しただけでなく、何の説明も行わず、領事面会の機会も提供しないまま、一方的に事件に関する声明を発表したことによるものである。テレビ局「カレント・タイム」の取材に応じた複数の関係者は、記者が捕虜交換の対象となる可能性があるとの見方を示している。
※「Настоящее Время」(ナストヤシュチェエ・ヴリャーミャ / 英語名:Current Time TV)」は、アメリカ政府が出資し、自由ヨーロッパ放送/ラジオ・リバティー(RFE/RL)がアメリカ音声を交えてチェコ・プラハから24時間放送している、ロシア語の独立系テレビ・デジタルニュースネットワーク。
ロシアの国営メディアは、ロシア連邦保安庁(FSB)が公開した映像を公開した。それには、ユジノサハリンスクで34歳の記者が取り押さえられ、床にうつ伏せにされた状態で手錠をかけられる様子が映っている。映像の中で、捜査官が記者に対し、日本の情報機関のためにスパイ活動を行った疑いで逮捕されたと告げる場面がある。録音の中で、記者がロシア語でこう尋ねる声が聞こえる。「どういうことですか? 何の話なのか、よくわからないのですが」–「あなたはスパイ容疑をかけられています」–「どういうことですか?」–「つまり、日本の情報機関のために」といったやり取りが確認できる。
記者はモスクワに移送され、レフォルトヴォ地区裁判所によって少なくとも2カ月間の拘留が決定された。この容疑には、最大で禁錮20年の刑が科される可能性がある。記者は北海道新聞の特派員である。ニュースメディア「オストロージノ・ノヴォスチ」によると、記者は以前、サンクトペテルブルク国立大学に留学しており、この夏にロシアへ戻り、ロシア国内で起きている出来事を取材していた。 10月5日に公開された最新の寄稿は、サハリンに居住する北朝鮮出身者に焦点を当てたものだった。
ロシア連邦保安庁は、記者がクリル諸島(※この場合、北方四島)の住民のうち、どれだけの人数がウクライナとの戦争に動員されたか、あるいは志願して戦闘に参加したかに関する情報を収集していたと主張している。
ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、今回の拘束の背景について次のように述べた。「『ウクライナ特別軍事作戦』の開始以降、日本当局がとっている反ロシア的な姿勢によって二国間協力関係全体が悪化していること、そして、日本の再軍備化(これは極東におけるロシアの正当な安全保障上の利益に関わる問題である)に対するモスクワの懸念に東京が耳を傾けようとしないこと―こうした状況を鑑みると、今回の出来事は、日露関係の雰囲気をさらに悪化させる新たな要因となるだろう」
「捕虜交換に期待するほかない」
9月には、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領も日露関係の悪化について言及し、その責任は「全面的に日本政府にある」と主張した。これに先立ち、プーチン氏は択捉島を訪問しており、これに対して日本外務省は「厳重に抗議」していた。
『カレント・タイム』が取材した専門家らは、この記者が捕虜交換の対象となる可能性があると指摘している。オックスフォード大学で日本研究を専門とするアルテミー・レフコイ氏は、そのような展開に期待を寄せた。
「彼が捕虜交換を目的として拘束されたのであれば、少なくとも人道的な扱いが保証されるはずであり、そうなることを願うほかない」と語る。2023年には、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者エヴァン・ゲルシュコヴィッチ氏がスパイ容疑でロシア当局に拘束され、厳格な管理体制の刑務所で16年の刑を言い渡されたが、その後、ロシアと西側諸国との間で行われた捕虜交換の一環として解放された。
メディア『アジェンツトヴォ』によると、日本人記者が同様の容疑で拘束されたのは、2019年後半以来のことである。その事例では、当該記者は極東におけるロシアの軍事能力に関する機密情報を入手しようとした疑いが持たれ、その後、国外追放処分を受けた。
親クレムリン派のチャンネル「Rybar」の運営者であるミハイル・ズヴィンチュク氏がモンテネグロで拘束されたことを受け、ロシア連邦安全保障会議のドミトリー・メドベージェフ副議長は「我々の同胞を取り戻すために、欧米の『間抜け』たちを確保し、『交換用カード(人質)』として蓄えておくべきだ」と示唆した。
では今回、日本人の記者と交換される可能性があるのは誰だろうか?
「真っ先に思い浮かぶのはハッカーだ」とレフコイ氏は指摘する。
『デア・シュピーゲル』誌の報道によると、5月26日、ドイツ当局の要請に基づき、ロシア国籍のウラジーミル・K(28歳)が大阪で拘束された。Kは恋人との休暇旅行で日本を訪れていた。ドイツ当局は、彼を国際的なサイバー犯罪グループ「Qilin(キリン)」の主要メンバーと見なしている。ドイツ側の捜査によると、Kは2024年9月に発生した現地の物流企業に対するサイバー攻撃に関与していた。報道によれば、ハッカーらは同社のデータを盗み出して暗号化した上で、約16万5000ドル相当の暗号資産(仮想通貨)を身代金として要求したという。
このハッカーグループのメンバーと見られる人物は、「Snake(スネーク)」という偽名で活動していた。『デア・シュピーゲル』誌によると、ドイツの捜査当局はグループのインフラおよび容疑者のコンピュータに潜入することに成功し、身元を特定するとともに、Kが日本で休暇を過ごす計画を把握した。同容疑者は10月2日、ドイツへ身柄を引き渡された。
「Qilin」は2022年に活動を開始した。当初はGo言語で記述されたランサムウェア「Agenda(アジェンダ)」を使用しており、これは高度なカスタマイズが可能なことで知られていた。2022年末までには、ランサムウェアをRust言語で書き直しており、これによりセキュリティツールによる検知や解析がより困難になった。
『デア・シュピーゲル』誌は、「Qilin」のビジネスモデルを「デジタル上の疫病」と表現している。セキュリティ機関によると、ドイツ国内だけでも152の組織や個人が同グループの被害に遭っている。ランサムウェア攻撃は、地方自治体だけでなく、公共交通機関や病院を麻痺させたほか、小売チェーン、エネルギー供給業者、建設会社、レンタカー会社などにも甚大な影響を及ぼしている。これらの標的に対して要求された身代金の総額は7000万ドルを超え、そのうち実際に支払われたのは約10分の1であった。
日本国内では、「Qilin(キリン)」と名乗るグループが、飲料メーカーのアサヒグループホールディングスを標的とした大規模なサイバー攻撃への関与を主張した。過去2年間で、ハッカーらは被害者に対して合計約30億ドルの身代金を要求し、最終的に1億4000万ドル以上が支払われた。
専門家らは、ロシア政府が、日本人記者の解放と引き換えに、日本が科している制裁の緩和を求めてくる可能性があると指摘している。
テンプル大学ジャパンキャンパスのジェームズ・ブラウン教授は、『カレント・タイム』のインタビューに対し、次のように述べた。「こうした事例はこれまでにも数多く見られます。これは外交上の交渉材料を得るための手段であり、今回の場合、その相手は日本です。つまり、『もし日本側が、この人物がロシアの刑務所で長年過ごす事態を避けたいのであれば、譲歩しなければならない』という明確なメッセージを送っているのです」(svoboda.org 2026/10/16)
※svoboda.orgは、ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティー」のロシア語版公式サイト。ラジオ・フリー・ヨーロッパ/ラジオ・リバティは、アメリカ合衆国政府の資金援助を受けている国際的な非営利放送機関。アメリカ合衆国グローバルメディア庁が受託機関。その使命は、「政府によって報道の自由が制限されている、あるいはまだ報道の自由が当たり前になっていない国々の聴衆に情報を届けることで、民主主義の価値観と制度を推進すること」。現在、ドナルド・トランプ米大統領とその支持者たちがラジオ・フリー・ヨーロッパへの政府資金提供を拒否しているため、同局は解散の危機に瀕している。(ウィキペディア)

