2026年10月下旬、クリル自然保護区に、国後島および色丹島で希少なハクガン(学名:Anser caerulescens)が目撃されたとの報告が複数寄せられた。ロシアのツンドラ地帯全域で広く繁殖するヒシクイやマガンとは異なり、ハクガンのロシア国内における繁殖範囲は非常に限定的である。この種は「スノーグース(雪のガチョウ)」という詩的な名称でも知られている。アジアにおけるハクガンの主要かつ実質的に唯一の安定した個体群は、ウランゲリ島国立自然保護区(ウランゲリ島)で繁殖している。同島以外では、ヤクートやチュクチ地方のツンドラ地帯、あるいはコリマ湾東部のアヨン島などで、小規模かつ不定期な繁殖集団が時折確認される程度である。ハクガンは、繁殖地や定期的な渡りのルートにあたるロシアの各地域のレッドブックに記載されている。(クリル自然保護区ウエブサイト2026/10/30)
この希少な訪問者に関する最初の報告は、2026年10月17日、ユジノクリリスク(古釜布)在住のガリーナ・シドロワさんから寄せられた。「外に出たとき、空を旋回しながら、まるで助けを求めるかのように不安げな声で鳴いている白い鳥の姿が目に入りました。ここユジノクリリスクではカモメをよく見かけますが、よく見てみると、どうやらカモメではなく、ガンのような鳥だと気づきました。2羽いて、1羽は草の上に座り、もう1羽は鳴きながら頭上を飛んでいました。写真を撮ろうとスマートフォンを取りに行きましたが、驚かせて逃げてしまわないよう、撮影は控えめにしました。それよりもすぐに、自然保護区の所長であるアレクサンドル・アレクサンドロヴィチ氏に連絡を取りました。所長は、すぐに助けに向かわせると約束してくれました。私が戻ったときには、鳥たちの姿はありませんでした。地上にいたガンは休息をとって体力を回復したようで、2羽はそのまま旅を続けたのでしょう」と、ガリーナ・シドロワ氏は語った。

国後島・古釜布湾のハクガン(2026年10月17日、ガリーナ・シドロワ)
国後島での目撃情報に続き、色丹島からも報告が届いた。これもまた、地元住民の鋭い観察眼のおかげである。自然保護区の上級国家検査官であるセルゲイ・カルペンコ氏が、10月22日にオトラドナヤ湾(色丹島マタコタン湾)で3羽のハクガンに遭遇する以前から、すでに住民から目撃情報が寄せられていた。色丹島では、ハクガンたちは、南クリル諸島で越冬するオオハクチョウの群れの近く、水上に羽を休めていた。しかし、ハクガンたちはあくまで通過中であり、本来の渡りのルートはさらに南へと続いている。

色丹島マタコタン湾のハクガン(2026年10月22日、セルゲイ・カルペンコ)
特筆すべきは、クリル自然保護区における40年以上にわたる動物学的モニタリングの歴史の中で、色丹島でハクガンが記録されたのは、今回がわずか2例目であるということだ。最初の事例は1年前の2025年10月に確認された。当時も3羽の個体が同じ湾に立ち寄っていた。国後島でハクガンが初めて確認され、大きな話題となったのは2019年のことである。

国後島で初めて確認されたハクガン(2019年11月26日、アレクサンドル・ヤコヴレフ)
2026年10月27日の夜遅く、自然保護区のスタッフが暗い空から聞こえてくるはっきりとした音を耳にした。それは、ハクガンの鳴き声によく似た音だった。これが公式に確認された事例とは言えないが、鳥の渡りにおける興味深い側面を浮き彫りにしている。ハクガンをはじめとする多くの鳥は、暗闇に紛れて移動することを好む傾向がある。
渡りの最中、これらの鳥は星の位置を頼りに進路を定める。夜間に飛行することには、大きな利点がある。暗闇の中では、オジロワシやトビといった、昼間に活動する猛禽類から身を守ることができるからである。さらに、夕方になると気温が下がり、大気の乱れが収まって、気流が安定する。日中は地面から上昇する暖かい空気の流れによって鳥の体が上下に揺さぶられることがあるが、夜になると「空のハイウェイ」は滑らかで安定した道となり、鳥はバランスを保つためのエネルギー消費を抑えることができる。興味深いことに、ガン類は生まれつき星空の地図を持っているわけではない。彼らは巣にいる生後数か月の間に星座を覚え、星空の読み方を学習していくのである。
若いガンは親と一緒に初めての渡りを行い、冬の間ずっと親と過ごし、春には共に北へと戻る。親と離れるのは、次の繁殖期が始まる直前のことだ。こうした習性からも、ハクガンが非常に家族思いの鳥であることがうかがえる。ハクガンは一夫一婦制であり、生涯にわたってパートナーと絆を結ぶ。ペアの間の信頼と愛着は非常に深く、怪我をしたり取り残されたりした仲間を気遣うような行動も、彼らにとってはごく自然なことである。(こうした姿は、人間によってもしばしば観察されている)。
一般的に、ハクガンは生後2年目でパートナーを選ぶ。若いペアは、生理学的にはもっと早い段階で交尾が可能だが、実際に繁殖に成功するのは3年目、あるいは多くの場合4年目の夏になってからである。実質的に、若い鳥たちは1〜2年を「婚約」期間のような状態で過ごす。この期間中に、彼らは互いの行動を同調させることや、お互いを守ること、そして数千キロメートルに及ぶ渡りの旅を共に行う術を学ぶ。子孫を残す時期が来ると、ペアは必ずメスの生まれた場所へと向かう。メスは、自分自身が孵化したまさにその場所に戻って繁殖するのである。
歴史的な分布域と人間活動による影響
かつて、ハクガンはユーラシア大陸のツンドラ地帯全域に広く分布していた。しかし、無秩序な狩猟や卵の採取により、アジア大陸側の個体群は壊滅的な減少に見舞われた。実際、ロシアにおけるかつての分布域の大部分で、この種はほぼ絶滅状態に追い込まれた。前述の通り、現在、繁殖個体群のほぼすべてがウランゲリ島に集中している。さらに、ウランゲリ島の個体群の大部分は「アメリカ・ルート」を利用して渡りを行い、東へ向かって米国やカナダで越冬する。

ロシアで繁殖するハクガンの主要な個体群の渡りルート(出典:P. フランク・ステヴィック著『ノース・ピュージェット・サウンドにおけるハクガンの渡りルートと中継地』、2017年)
国後島や色丹島では、別の希少なグループに属するハクガンが見られる。これは、伝統的に東アジア(具体的には日本)へ南下して越冬する個体群である。このグループは危機的な状況にあり、カムチャツカ地方のレッドデータブックによると、その数は100羽にも満たないとされている。
こうした理由から、近年、南クリル諸島(北方四島)でハクガンが定期的に確認されていることは、鳥類学者の間で慎重ながらも期待を抱かせる出来事となっている。これは、アジアにおける渡りのルートが緩やかに回復し始めている兆候かもしれない。とはいえ、楽観は禁物である。アジアのハクガン個体群は極めて脆弱な状態にある。わずか数組の繁殖ペアが失われるだけでも、取り返しのつかない打撃となりかねないのである。ハクガンは厳格な一夫一婦制をとるため、ペアの片方が(例えば密猟者によって)命を落とすと、残された健康な個体は、永続的とは言わないまでも、数年間にわたって繁殖の機会を失うことになる。
アジアを移動するこの個体群は、チュクチ半島、カムチャツカ半島、コマンドル諸島、クリル諸島(北方四島を含む千島列島を経て日本に至る渡りのルートに関する独自の遺伝的プログラムと記憶を保持している。この小さな集団は、太古から続く渡りの経路の記憶を今に伝えているのである。
もしこの小さな集団が消滅してしまえば、世代間の連続性、すなわち親から子へと経験が受け継がれる仕組みが断たれてしまうため、渡りのルートを再び復活させることは極めて困難な事業となるだろう。
クリル諸島に飛来するハクガンを一羽一羽守ることは、単に美しい鳥を救うことにとどまらない。それは、ユーラシア大陸全体が共有する、消えゆく自然遺産を回復させるための闘いなのである。

色丹島マタコタン湾(2026年10月30日、セルゲイ・カルペンコ)
ハクガンに関する興味深い事実 北極圏のツンドラにおける繁殖をかけた時間との闘い
本来の生息地であるツンドラにおいて、ハクガンは賑やかなコロニー(集団繁殖地)を形成し、巣と巣の間隔は平均わずか10〜15メートルほど。5月下旬に北の地へ到着するが、その頃の北極圏のツンドラはまだ氷と雪に閉ざされており、鳥たちは到着早々、過酷な環境に直面することになる。
雪のない場所をめぐる争い:寒さが厳しく条件の悪い年には、雪のない地面が極端に不足する。オスたちは縄張りをめぐって争う。時には場所が足りず、「托卵」のような現象が起きることもある。メスが他の個体の巣に卵を産んでしまうため、一つの巣にある卵の数が過剰になり、結果としてその巣の卵がすべて失われてしまうこともある。特に厳しいシーズンには、繁殖を完全に断念することさえある。
巣作りのスケジュール:鳥たちに巣を作る時間は数日しかない。巣といっても、高台の地面を浅くくぼませただけの場所に、草や苔、そして自分たちの羽毛を敷き詰めたシンプルなものだ。メスは3〜6個の卵を産み、約21〜25日間、その場を離れることなく卵を温め続ける。
陸路の移動と一斉換羽
ハクガンの生物学的な特徴の中で特に注目すべきは、孵化して間もない雛たちの行動である。同じ巣の雛たちは、ほぼ同時に孵化する。卵の中にいる段階から、雛たちは音のシグナル(カチカチという音)を使って「コミュニケーション」をとっており、孵化が遅れている雛の成長を促す働きがあると考えられている。
最後の雛の羽が乾くと(通常、孵化から1〜2日以内)、家族は巣を離れる。親鳥は、綿羽に包まれた雛を繁殖コロニーから連れ出し、北極圏の豊かな植生が広がる内陸深くの河川氾濫原や湖沼へと移動させる。この段階で、まだ小さな雛たちは、起伏の激しいツンドラ地帯を何十キロメートルも移動することができる。
当初、親鳥は飛ぶことができ、雛たちに目を光らせて守っている。しかし、雛の孵化から2〜3週間が経つと、親鳥は換羽(羽の生え変わり)を迎える。この際、飛ぶための羽(風切羽)が一斉に抜け落ちるため、親鳥は完全に飛べない状態になる。この非常に重要な期間は、約1カ月間続く。一時的に無防備な状態となる親鳥と、成長途中の雛たちにとって、北極圏の湖沼はホッキョクギツネなどの捕食者から身を守るための重要な避難場所となる。自然界はこのサイクルを完璧に調整しており、親鳥の風切羽が再び生え揃うタイミングと、雛たちが初めて飛ぼうとする時期がちょうど重なるようになっている。孵化から約6週間後、家族全員が揃って空へと飛び立ち、秋の渡りに向けた準備を始める。
食性
ハクガンは主に陸上で生活し、完全な植物食である。水に入るのは、水を飲むときや、換羽期に捕食者から逃れるときがほとんど。その食性は、季節や場所によって大きく異なる。
夏の食事:ツンドラ地帯では、ヤナギの若芽、北極圏の草本類、スゲ類、コケ類、地衣類、そしてベリー類などを食べる。彼らの強力な嘴は独特の構造をしており、単に地表の草を食べるだけでなく、凍った地面を掘り返して、栄養価の高い地下茎や塊茎を効率よく掘り出すことができる。
冬の食事:渡りの途中や越冬地(日本を含む)において、ハクガンは農耕地という環境に素早く適応する。冬作物の畑で採餌を行い、稲、トウモロコシ、小麦の収穫後に残されたものや青々とした牧草などを食べて過ごす。


